保育士が「お家ではどんな遊びをしていますか?」と聞く理由

保育園で噛みつきが見られた時、私は保護者へいきなり「お子さんが噛みついています」と伝えることは、ほとんどありませんでした。

噛みつきにはさまざまな理由があり、一つの原因だけで起こるものではないからです。

そこで、私がよくお聞きしていたのが、

「お家ではどんな遊びをしていますか?」

という質問でした。

その理由は、家庭でのスキンシップの中にヒントが隠れていることがあるからです。

例えば、お父さんやお母さんが可愛さのあまりに「カプッ」と優しく噛んで遊んでいたり、お子さんが甘噛みをした時に「かわいいね」と笑っていたりすることがあります。

もちろん、それ自体が悪いということではありません。
しかし、子どもにとっては「噛むことは楽しいコミュニケーションなんだ」と受け取ってしまうこともあります。

そのため、保育園でも同じようにお友達へ噛んでしまうケースを経験してきました。

実際にあった出来事

1歳児クラスを担任していた時のことです。

入園したばかりのAちゃんは、まだ歩くことはできませんでしたが、乳歯はしっかり生えていて、噛まれるとくっきり歯型が残るほど力がありました。

毎日のように何度もお友達を噛んでしまうため、保護者へ園での様子を丁寧にお伝えしました。

すると、お母さんは

「家でも噛みます。でも、まだ赤ちゃんですし、怒ったことはありません。怒って育てたくないんです。」

と話してくださいました。

その言葉を聞いて、「だから噛むんだ」と思ったことはありません。

ただ、ご家庭では困る場面が少なかったため、「噛むと相手が痛い」「噛まない伝え方がある」ということを、まだ学ぶ機会が少なかったのかもしれません。

そこで、ご家庭でも「噛むと痛いよ」と短く伝えたり、「貸してって言おうね」と言葉を添えたりしていただくようお願いしました。

保育園と家庭で同じように関わるようになると、Aちゃんは少しずつ噛む回数が減っていきました。

噛みつきを改善するために大切なのは、子どもを責めることでも、保護者を責めることでもありません。

保育園と家庭が一緒に原因を考え、同じ方向を向いて関わっていくことが、子どもの成長につながると私は19年間の保育を通して感じています。

この経験から私が感じたのは、子どもは「保育園ではこう、家ではこう」と分けて考えているわけではないということです。

保育園でも家庭でも同じような言葉掛けをしてもらえることで、「噛まなくても伝わるんだ」という経験が積み重なり、安心して行動を変えていけるのだと感じています。

家庭でできる噛みつき予防のポイント

保育士として19年間、多くの噛みつきを見てきましたが、一番感じることがあります。

それは、「噛まないで」と繰り返し伝えることよりも、噛まなくても気持ちを伝えられる経験を積み重ねることが大切だということです。

例えば、お子さんがおもちゃを取られて困っている時には、

「嫌だったね。」

「貸してって言いたかったんだね。」

と、大人が気持ちを言葉にしてあげます。

その上で、

「『貸して』って言ってみようか。」

「困った時はママや先生に教えてね。」

と、噛む以外の伝え方を一緒に練習していきます。

また、言葉で伝えられた時には、

「ちゃんと教えてくれてありがとう。」

「貸してって言えたね。」

と、その姿をしっかり認めてあげることが大切です。

子どもは褒められることで、「この伝え方でいいんだ」と少しずつ学んでいきます。

噛みつきをなくそうとするのではなく、「噛まなくても気持ちが伝わる」という成功体験を増やしていくことが、予防につながると私は感じています。

家庭だけで解決しようとしなくて大丈夫です

「家で何とかしなければ。」
「私の育て方が悪いのかな。」

噛みつきが続くと、そのように自分を責めてしまう保護者の方も少なくありません。

しかし、保育士として19年間多くの子どもたちと関わってきましたが、噛みつきは家庭だけが原因で起こるものではありません。

言葉の発達、友達との関わり、生活リズム、疲れや眠気、その日の体調など、さまざまな要因が重なって起こることがほとんどです。

だからこそ、一人で抱え込まず、保育園や幼稚園の先生と一緒に考えていくことが大切です。

「最近、家でも噛むことがあります。」
「こんな時に噛むことが多いです。」

そんな小さな情報でも、保育園では大きなヒントになることがあります。

家庭と保育園が同じ方向を向いて関わることで、子どもは安心し、少しずつ噛む以外の方法で気持ちを伝えられるようになっていきます。

噛みつきをなくすことだけを目標にするのではなく、お子さんが安心して自分の気持ちを伝えられるようになることを、一緒に目指していきましょう。

やってはいけない対応

噛みつきをやめさせたい一心で、つい強く叱ってしまうこともあるかもしれません。

しかし、保育士として19年間子どもたちと関わってきた中で感じるのは、強く叱ることだけでは根本的な解決にはつながりにくいということです。

① 長時間叱り続ける

子どもは「なぜ叱られているのか」が分からなくなり、不安な気持ちだけが残ってしまうことがあります。

「噛むと痛いよ」と短く伝え、その後はどうすればよかったのかを一緒に考えてあげることが大切です。

② 「悪い子」と決めつける

「あなたは噛む子だね。」
「どうしていつも噛むの。」

このような言葉は、子どもの自己肯定感を下げてしまうことがあります。

大切なのは、子ども自身を否定するのではなく、「噛む」という行動について伝えることです。

③ 無理に謝らせる

まだ1〜3歳頃の子どもは、「ごめんなさい」の本当の意味を十分に理解していないこともあります。

まずは相手が痛かったことを伝え、子どもの気持ちを受け止めながら、「次はどうしたらよかったかな」と一緒に考えることが大切です。

④ 大人が感情的になる

大人が怒鳴ったり、感情的に叱ったりすると、子どもは驚きや恐怖で頭がいっぱいになり、学びにつながりにくくなります。

子どもが安心して話を聞けるよう、落ち着いた声で短く伝えることを心掛けましょう。

噛みつきを減らすために一番大切なのは、「噛んではダメ」と伝えることだけではありません。

「どうしたかったのかな?」
「次はどう伝えようか。」

そんなやり取りを繰り返しながら、子どもが噛む以外の方法で気持ちを表現できるように支えていくことが、何より大切だと私は感じています。

保育士19年で一番伝えたいこと

19年間、たくさんの噛みつきに向き合ってきました。

噛まれた子どもの保護者から涙ながらに相談を受けたこともあります。
一方で、噛んでしまった子どもの保護者が、「またうちの子ですか…。」と肩を落とし、自分を責めている姿も何度も見てきました。

噛みつきは、誰か一人が悪いから起こるものではありません。

子どもの発達やその日の体調、友達との関わり、保育環境など、さまざまな要因が重なって起こることがほとんどです。

だからこそ、大切なのは「誰が悪いか」を探すことではなく、「どうすれば次は防げるだろう」と大人同士が同じ方向を向くことだと思っています。

子どもは毎日少しずつ成長しています。
言葉が増え、人との関わり方を学び、自分の気持ちを伝えられるようになるにつれて、多くの子どもは噛まなくなっていきます。

焦らなくて大丈夫です。

保育園と家庭が協力し、お子さんの小さな成長を一緒に喜びながら見守っていくことが、噛みつき予防への一番の近道だと私は感じています。

よくある質問(Q&A)

Q. 噛み癖は家庭だけで改善できますか?

家庭での関わりはとても大切ですが、それだけで改善するとは限りません。
子どもの発達や保育園での生活、友達との関わりなど、さまざまな要因が影響しています。
家庭と保育園が情報を共有し、同じような関わりを続けることが改善への近道です。

Q. 噛んだ時は厳しく叱った方がいいですか?

強く叱るよりも、「噛むと痛いよ」と短く伝え、「嫌だったんだね」「貸してって言いたかったのかな」と気持ちを受け止めることが大切です。
子どもは安心できる中で、少しずつ言葉で伝える方法を覚えていきます。

Q. 家では噛まないのに保育園だけ噛みます。なぜですか?

保育園では友達との関わりが増え、おもちゃの貸し借りや順番待ちなど、家庭では経験しない場面がたくさんあります。
そのため、保育園だけで噛みつきが見られることは珍しいことではありません。

Q. 甘噛みもやめた方がいいですか?

親子のスキンシップとして自然に行っているご家庭もあります。
ただ、お子さんが「噛むことは楽しいコミュニケーション」と受け取ってしまうこともあるため、噛む代わりにハグやくすぐり遊びなど、別のスキンシップへ少しずつ変えていくことをおすすめします。

まとめ

  • 噛みつき予防には、子どもの気持ちを言葉にしてあげる関わりが大切
  • 「貸して」「嫌だ」「やめて」など、噛む以外の伝え方を少しずつ練習する
  • 甘噛みが遊びになっている場合は、別のスキンシップに変えていく
  • 噛んだ時に長く叱るより、短く伝えて次の行動を教える
  • 家庭だけで抱え込まず、保育園と情報を共有することが大切

子どもの噛みつきは、保護者にとって心配な行動です。

しかし、噛みつきは「悪い子だからする」のではなく、まだ気持ちをうまく言葉にできない時期に見られるサインでもあります。

19年間保育士として子どもたちと関わってきましたが、噛みつきを「ゼロ」にすることよりも、「噛まなくても伝えられる子」に育てていくことが何より大切だと感じています。

子どもは毎日の関わりの中で少しずつ成長していきます。
焦らず、お子さんの小さな「伝えられた」を一緒に喜びながら見守っていきましょう。

参考資料

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